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2026/08/19

ベトナム高齢化社会突入・老人ホーム事業は求められているか?

ハノイのタイホー地区で、公立の「高齢者デイケア拠点」が試験的に開所しました(ハノイ市保健局)。ほぼ同じ週に、ホアンマイでは総額14.2兆ドン(約800億円)の高齢者向け医療コンプレックスが承認されています。住居720戸、1,600床の病院、完成は2029年末(ハノイ市人民評議会、2026年8月10日承認)。ホーチミン市も、160万人の高齢者に向けた日中預かり型モデルを2025〜2030年計画に組み込みました(同市2025〜2030年計画)。行政が選んだのが入所型ではなく「日中預かり型」だったことは、実際の需要の形を示しています。

Việt Nam vừa có thêm 1 "viện dưỡng lão" công lập giá 5 triệu đồng/tháng: Sáng đưa đi, chiều đón về, đã có 20 người đăng ký - Ảnh 2.

(写真:タイホー、「高齢者デイケア拠点」、ハノイ保健局)

数字の背景ははっきりしています。2025年4月時点で60歳以上は1,480万人、65歳以上は982万人(人口の9.6%)(ベトナム統計局、2025年4月1日時点人口統計)。高齢化社会から高齢社会への移行に要する年数は25年で、日本の26年とほぼ変わりません。フランスは115年かけました(UNFPA・ベトナム統計局推計)。ベトナムは日本と同じ速度で、日本より低い所得水準のまま高齢社会に入ります。

一方、統計上の供給は驚くほど薄いままです。全国の高齢者ケア施設は約300か所、利用者は約1.1万人。老年医学の研修を受けた医療従事者は7,849人(ニャンザン紙)。介護職には、いまだ職業コードも公式の養成課程も存在しません。

ただし、これはあくまで統計上の話です。順に見ていきます。

2036年に「高齢者」になるのは誰か

「ベトナムが高齢社会に入る」と言われる2036年時点で65歳以上となるのは、1971年以前に生まれた世代です。その中心にいるのが現在50代の1,234万人(ベトナム統計局、2025年4月1日時点)。

ただし人口ピラミッドを見ると、この層は最大のコーホートではありません。最も厚いのは30〜44歳の2,481万人、1981〜1995年生まれです(同)。彼らが60歳に達するのは2041〜2055年、本格的な介護を必要とする75歳に達するのは2056年以降。つまり2036年は統計上の閾値を越える年にすぎず、需要の本番はその20〜30年後に来ます。

1967〜1976年生まれの世代は、ベトナムで唯一の経験を持っています。配給制度の下で育ち、市場経済の中で社会に出た世代です。ドイモイ(1986年)のとき、彼らはまだ10代でした。反射的に貯蓄する一方で、サービスに対価を払うことに抵抗がない。この二面性が消費行動を決めています。

そして彼らは、ベトナムで初めて一代のうちにまとまった私有資産を築いた世代でもあります。1995年から2010年にかけて、ハノイやホーチミンの住宅を今からは考えられない価格で取得しました。その資産価値は現在、当時の何倍にもなっています。1960年以前生まれの世代との最大の違いはここにあります。

したがって2036年のベトナム高齢者像は明確です。資産リッチ・所得プア。2036年にハノイに住む68歳は、数十億ドン相当の住宅を保有しながら、現金収入はほぼゼロという状態になります。実際、高齢者の73%が年金も社会保険給付も受けていません。年金受給者の平均額は月620万ドン(約3.5万円)です(ベトナム社会保険関連報道、2025年)。

日本が通った道と同じに見えます。ただし、日本の解き方はベトナムでは機能しません。日本で有料老人ホームが成立したのは、高齢者が自宅を売却または担保に入れて入居費を払えたからです。リバースモーゲージの市場があり、自分の資産は自分を養うためにあるという合意がありました。ベトナムでは、93%が自宅を「先祖から受け継ぐもの」と捉え、85%が子に遺すべき最も重要な資産と考えています(ティエンベト証券〈TVS〉2026年調査、5都市の富裕層1,000人対象)。資産は存在します。ただし、法律ではなく文化によって凍結されている。文化は10年では変わりません。

では、誰が支払うのか

支払うのは本人ではなく、子の世代です。1995〜2010年生まれ、現在10代後半から30歳前後の約2,170万人(ベトナム統計局、2025年4月1日時点)。この層が、親の介護について意思決定し、費用を負担することになります。

ここで日本と決定的に違う条件が一つあります。ベトナムには現在、資産課税がありません。子は親の住宅をほぼそのまま相続できます。住居費の負担が軽い分、介護費用を負担する余地は生まれる。ただしそれは、この世代自身の所得次第です。しかも合計特殊出生率は1.91(ベトナム統計局、2024年)。一人の子が、自分の子の教育費と親の介護費を同時に抱える構図が、2034年前後から始まります。

現場ではすでに市場が動いている

「供給がない」というのは統計上の話にすぎません。都市部、とりわけ病院では、需要はすでに顕在化しています。

ハノイやホーチミンの病院に行けば、資格を持たないまま付き添い介護を引き受ける女性たちが常時待機しています。相場は1日50万〜100万ドン(約3,000〜6,000円)。一人で複数の患者を同時に見ることも珍しくありません。住み込みの家政婦が高齢者の世話を兼ねる形も広がり、月給は1,000万〜1,500万ドン(約6〜9万円)まで上がりました(いずれも当社によるハノイ・ホーチミンでの現地観察。公的統計は存在しません)。彼女たちに共通するのは、体力があり、他人の身体に触れる仕事を引き受ける覚悟があり、そして一度も訓練を受けたことがない、という点です。

この市場はどの報告書にも載りません。事業者登録も、研修記録も、事故が起きたときの責任の所在もない。それでも価格がつき、取引が成立している。これは需要が存在することの、統計より強い証拠です。

同時に、ベトナムには親を施設に預ける文化がまだありません。在宅で看る、人を雇うという選択が主流です。だからこそ家事使用人・介護人材の紹介業は、都市部で常に需要を抱えています。この傾向も、適切なモデルが現れれば変わる可能性はあります。

市場規模の見方を一つ補正しておきます

「高齢者1,480万人」という数字が、しばしばそのまま市場の大きさとして引用されます。しかし実際に介護を必要とするのは75歳以上の352万人であり、そのうち都市部に住むのは128万人です(ベトナム統計局、2025年4月1日時点データより当社算出)。サービス事業として到達可能な母数は、報じられる数字のおよそ11分の1にすぎません。

もう一つ。80歳以上の64%は女性です(同)。介護される側も、介護する側も、この国ではほぼ女性です。

結論:足りないのは箱ではなく、職業

不足しているのは、施設でも需要でもありません。職業そのものです。介護には職業コードがなく、公式の養成課程もない。だから資格も、事故が起きたときの責任の所在も定義できません。日本企業が二の足を踏むのは市場を疑っているからではなく、この空白があるからです。

大規模な施設をいくつも建てる段階には、まだ入っていないと私たちは見ています。需要の本番が2040年代以降に来るのであれば、いま置くべき一手は建物ではなく、すでに働いている人たちの上に養成・資格・オペレーション基準を載せることではないでしょうか。

ここには非対称があります。施設は需要を読み違えれば、空室のまま固定費を生み続けます。しかし育てた人材が余ることはありません。ベトナムでも日本でも、この先しばらく足りないのは同じ人だからです。

ツクイが大学や地場グループと組んで人材育成から入っている形は、遠回りに見えて実は最短距離かもしれません(同社発表。ベトナムでの運営実績は現時点で未公表)。

箱は3年で建ちます。人は10年かかります。急がなくてよいのは、箱のほうです。